コンタクトレンズ(50)
辰野博士のこと
長谷川 泉
pp.31
発行日 1964年5月10日
Published Date 1964/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203102
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フランス的なしゃれたエスプリというものがある.ドイツ風のがっちりしてぎすぎすした構成的な精神とも違うし,イギリス風の経験主義的な実際的なものの考え方とも違うし,アメリカ風のプラグマティズムともちがった行き方である.そのようなフランス風のシャレたエスプリはフランス風なすべてを反映したフランス文学に横溢している.たくさんのすぐれた弟子を擁してフランス文学のエスプリを日本に氾濫させたのは,辰野隆博士であった.
辰野博士のお弟子ということになると,学者としての渡辺一夫をはじめ評論家の中島健蔵,小林秀雄,中村光夫をはじめ異色の今日出海や,もう若いとはいえなくなったアプレゲールの中村真一郎,福永武彦などにいたるまで数多い.そして,大学の文学部という,ほかの学部にくらべればずい分自由な雰囲気の中にあっても,まだ白いか灰色かわからぬが,とにかく塔であることは間違いない雰囲気のなかにあっては,塔を全く感じさせないような自由な空気が辰野博士のまわりにはあった.その雰囲気が辰野博士の弟子をして,各界の俊秀たらしめたのである.
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