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古稀の久松博士
長谷川 泉
1
1医学書院編集
pp.24
発行日 1964年2月1日
Published Date 1964/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202693
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癌はまだ死病である.癌センターの田宮猛雄総長も,癌研病院の田崎勇三院長も癌で生命をとられた.数年前夫人を癌でなくされた久松潜一博士が古稀を迎え,その賀宴がもよおされた.老いてなおかくしゃく,研究に,また広い文化活動に挺身している.髪も黒く,顔の色艶もよく,いかにも元気で,人格の円満を語る温和なまなざしを弟子たちの上にはせていた.今後もなお長寿を保ってすぐれた道標を打ち立てられることを期待する声に囲まれていた.祝電の中に喜の寿の祝と間違えたものもあったが,それを翻訳した五味教授の心中は,喜寿はおろか,さらに長生きをして先達として師表になって欲しい気持であったろう.
人間の寿命は延びたから古稀はもはや古来稀ではなくなった.これで癌の治療法の劃期的なものでも発見されるならば,人間の寿命はさらに延びるであろう.その時はすなわち,古稀はまだ青年の域である.現在のところ,男子の方が,女子よりも平均年齢は低い.このことは,男子の方が老人性疾患などによって早く逝去することを統計的に示している.体質的に男性の方が女性より弱くて長持ちしないということはないだろうから,女性の方が,強くて長持ちするのは,やはり一家を支えてゆく責任の重味にも比例するものであろうか.
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