特集 母性保健指導のポイント
生活と結びついた母性保健指導—農山村地域の対策
篠崎 吉次
1
1群馬県・富岡保健所
pp.21-25
発行日 1963年5月10日
Published Date 1963/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202829
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はじめに
農山村の母性保健の状況は,医療施設や,社会的文化資源にめぐまれた都市にくらべて,いちじるしく,たちおくれている.とくに僻地に近い山村では,日常生活そのものの貧しさと後進性が,その地城の,母性も含めた保健水準に,深い影響をあたえていることに,注目しないわけにはいかない.また,最近のように,農村自体の社会構造が,急速に変わりつつある時には,若年労働力である青年層の離村や,兼業化が進むにつれ,主婦農業といわれるように,農業労働の主役が,次第に主婦層にうつる傾向がある.これは,母性保健の立場からも,注意されねばならない.私たち公衆衛生の立場から,農村の母性保健を考える場合にその背景にある農民の生活構造の特異性が,問題となってくる.一体農村の主婦あるいは妊婦が,どんなものを食べ,どんな生活をし,どんな生活意識をもっているのか,こうした生活の場からきりはなしては,農村の母性保健の欠陥を考えることはできない.一例をあげると,農村の妊婦は,妊娠する前から,すでに無自覚性の浮腫をもつものが少なくない.これは,長い間の貧しい食生活による栄養障害や,農作業による過労が原因していると考えられる.また,経産婦では,前回の出産後の摂生が不充分であるため,妊娠中毒症の後遺症状を残したままで,ふたたび妊娠して症状が悪化している例も,かなり多い.
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