病態生理講座
神経症について
藤田 千尋
1
1慈恵医科大学神経科
pp.69-72
発行日 1962年6月10日
Published Date 1962/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202601
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いとぐち
一昔前の神経衰弱にかわつて神経症という言葉は日常非常に耳馴れたものになつている.2,3日多少寝られなかつたり,考え事などして少しばかり疲れたりしても,すぐ神経症ではないかしらなどと考えたり,人からも思われたりする.昔,神経衰弱というと頭のいい学生の特権でもあるかのように考えられたりしたが,今ではもつと一般化して近代人の生活のアクセサリーでもあるかのように神経症は思われがちでもある.このように日常の生活の中にある病名がとけ込んでいるということは,精神衛生学的な知識が普及したためでもあろうが,その反面には,それだけわれわれの現実がある重大な欠陥をはらんでいる証拠とも云える.今,その問題は一先ず置くとして,これ程なじんでいる病気であるから,さぞその本態も研究し尽されているように思われがちだが,実は感冒などと同じで,十分に判つていないのが実情であり,一般の人はもちろん,医学にたずさわる人でも,神経症は神経の病気で,気の持ち方によつて良くもなつたり,悪くもなつたりするものだと考えている人が意外に多い.次のような例は,日常よくわれわれが見聞きするものであるが,これは神経症についての知識の乏しさを示すものであると同時に案外神経症の真実の姿を物語つているとも云えるのである.ある患者が何かの機会から動悸を気にしだし,医師の診察を受けた.
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