編集者から読者へ
"牧子さん"から異論をいただいて
A. S
pp.10
発行日 1961年7月10日
Published Date 1961/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202357
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本誌5月号のこの欄に「"分を知る"ということ」の一文をのせましたが,長野県の牧子さんから"異論"のお手紙を頂戴いたしましたので,再度,そのことに触れて恐縮でございますが御返事を書きたいと存じます.
牧子さんが指摘された,職場,組織の中の分は,身分関係でとらえた分とは値が違うということ,それは全く御指摘の通りだと存じます.ただ私が,職場の中で使用された"分"という言葉を,あえて身分関係でとらえて見たのは,その言葉を,一般にはつきりと割り切つて使つているかという疑問を持つたからであります.戦争という異常な全体主義の時期を長い期間生きてきた私達は,封建意識を完全にすて切ることもできずに,封建の残滓をひきずつて来ている.各人の中で近代革命さえ行なわれていない.そういう問題意識から出発して,日常抵抗なく使われている言葉や,あるいは考え方を,ひき出し,掘り下げて見たかつたわけです.そうすると,職場の中で使われた"分"ということも,そのまま素通りできないものを持つているように,私には思われ,分意識の歴史からさかのぼつて考えて見る必要を感じたのです.歴史的に考えればそれは,あきらかに身分関係の"分"でありましよう.すると,その分は,はつきりと組織の中の立場としてのみの要素で使われたか,どうか,に再び戻ることになります.
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