教養講座
矛盾にたちむかう勇気—組織のなかの自分の生かし方
山下 肇
1
1東京大学教養学部
pp.26-29
発行日 1961年2月10日
Published Date 1961/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202268
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◇人間らしく生きることのできる組織
若い日々,ひどい屈辱に悩まされるのは耐えがたいことだ.なんという屈辱,なんという汚辱にみちた世の中だろう,と身もだえして眠られぬ夜がある.若々しい誇りがむなしく音たてて崩れていく体験もあろう.いつたいこのような現代日本が民主主義の時代といえるのだろうか,と怒りにふるえて歯ぎしりする瞬間もあるだろう.
本来,組織とは,人間をまもり育て,真に人間を解放するためにこそ存在すべきものである.その組織のなかにいると,おのずから自分が人間らしく生きいきとなり,解放感をおぼえるような組織--そういうものは,具体的にいつて,どういう組織だろうかと考えてみるとよい.たぶん,それは,自分の家庭であるとか,仲よしクラブであるとか,あるいは自分の好きな趣味にあつた遊び場であつたり,リクリエーションの旅の大自然のなかであつたりする.大自然はもちろん組織とはよぶことができない.大自然に浸る喜び,孤独の解放感は,社会組織や人間関係のわずらわしさから逃れて,ひとりになることのできた喜びであつて,組織と人間とが対立矛盾の関係におちこんだところから生まれているのならば,組織と人間とは,そもそも対立矛盾すべきものなのだろうか.本来そのように出来ているものなのだろうか.
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