教養講座
世界最古の職業
坂西 志保
pp.30-32
発行日 1961年2月10日
Published Date 1961/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202269
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〈保健婦の前身は助産婦〉
保健婦という職業は,必要に迫られて,近代社会が生みだしたものと考えられていた.医者と看護婦が足りず,すべての人が彼らのサービスにあずかることができない.その代役をつとめるのが保健婦だと,西欧の人たちは考えていた.ところが最近,保健婦の前身は産婆というか,助産婦で,これこそ世界最古の職業である,ということになつた.ギリシヤの哲学者プラトンは,母親と産婆の区別をつけず,両者をmaiaという一つのことばでよんでいる.ノルウエーの古い諺に「女性にとつて最大のよろこびは母となることで,第2の大きなよろこびは産婆となることである」とある.アダムとイブの時代から,お産婆さんという職業は,社会になくてはならぬものとなつていたのである.
ところが1648年,パリの病院で初めて男性の医者が正常の出産を扱つてから,西欧の進歩した社会では産婆の役割は徐々に後退し,貧困者と無知な階層の人たちだけが世話になるということになつた.妊婦が健康で,分娩が正常であるなら,医者はいらず,介添役の産婆だけでよいという数千年の間考えてきたことがくずれ,出産に医者が登場することになつたが,それはまだ3百年にしかならないのである.そしてこれは,文明の進歩と考えられていたのであつた.
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