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生涯をかける辺境の保健婦さん—治療できぬ"限界の悩み",他
平野 順治
1
1編集部
pp.27,32,36
発行日 1960年9月10日
Published Date 1960/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202167
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只見川の上流,薪潟福島の県境に,ポツンと置き忘れたような小さな部落がある.電灯もなく,稲も育たず,里のたよりも3日に一度という貧しい部落,すなわち福島県南会津郡檜枝岐村赤岩平に,昨秋,家族ぐるみで赴任した保健婦さんがいる."赤岩の保健婦さん"の愛称で呼ばれる星キチ子さん(37)である."天職"という言葉はまことに美しいが,医者も足をふみいれぬ奥地での保健婦活動には,いろいろな悩みがつきない.—ここでも生活の貧しさが病気の面に反映している.主婦や老人に神経痛が多いのは,過労と栄養の欠乏,高血圧の患者はいくら注意しても畑仕事をして再発作をくりかえし,懐血病の一種である紫ハン病患者の続出は,新鮮な野菜類の不足がその原因となつている.また井戸を掘らず流れ水をのむため下痢をするものが絶えない.—病気と貧困への涙ぐましい対決,だが問題の根はふかいところにあるようだ.キチ子さんの行動範囲は8キロ四方におよび,巡回は1日がかり.自転車もきかぬ山道のこととてモンペに長ぐつ姿,冬にはカンジキばきで雪の夜道も歩かなければならない."保健婦は治療行為ができない"という規則があるが,目の前で苦しんでいる患者をみて,簡単な方法で治療ができると分つていながら,放置しておくのは大へんな苦しみ.単純な外傷や腹痛であれば保健婦にだつて手当てはできる.
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