特集 母と子をまもる保健婦
ルポルタージュ
秩父学園のこと
所沢 綾子
1
1編集部
pp.78-80
発行日 1959年5月10日
Published Date 1959/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201865
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不遇な子 吾子なる故にはなれいて
二声三声 今宵も呼びぬ
楽しさに家を忘れたむくどりは
秩父の園に今日も戯る
つつがなく元朝むかえし吾子達に
初日の光 いつまでもあれ
これは知恵おくれの子供を持つた母親の歌であります.母親の心のかなしさと,不遇な子を思う愛情がにじんでおります.もし私の子が,もしそうであつたら……女であつたら,一度はふつと思い浮べて見る恐怖であります.けれど今精薄児は全国に100万もいるといいます.そして通園施設や地方の収容所に入ることの出来ない,白痴と言われる人々も10万人もいるのだそうです、その沢山な中から狭い門をやつとくぐつてこの国立の秩父学園に入つて来ることの出来た子供達は何と言つても幸福であります.入ることの出来なかつた子供達は,家庭の愛情を受けているとしても,やはり家庭の暗いスミに何か宿命の暗い影を背負つてじつとたたずんでいるに違いないからです.ここの子供達は,広々としたま新しい学園の中に,同じ境遇の子供達と一緒に,暖かい指導員方の愛情と,めまぐるしい程の働きにつつまれて,それ程,薄幸のかげりもみせず,人なつつこい微笑を見せて,たまたま訪れた私に,「入れ,ね,入れ」と蜜つわりつくのです.その言葉も,児童達の言える言葉のほんのいくつかのなかの一つなのでありましよう.
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