書評
—乾孝著—女性からの解放(男性白書),他
A. S
pp.46-47
発行日 1958年3月10日
Published Date 1958/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201600
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いぬい・たかし(乾孝)先生は本誌にもしばしば御登場をお願いした事のある,心理学者であり法政大学の教授である.
氏は望月衛氏に云わせると九代目団十郎のような立派な顔をしていらつしやるが,私に云わせると,柴田練三郎の筆になる,眠狂四郎を彷彿させる孤影を感じさせる人である.そして「レンアイをした事がないのです」と,大変植物的な発言をなさる.その乾先生が,ものされた「女性からの解放」サブタイトル「男性白書」は,人間の作つたきずなの中で,いかに人間が不自由な生活をしているかについて述べてある.男の子は生長の過程で「男の子らしく」あるために,肩を張つて育てられ,女の子は「女らしく」あるために勉強よりもお手伝いを中心として「女である事を後悔しながら」育てられる.そうした男の子と女の子が青春を迎え,男の子は,サツパリとりりしくある為に,胸が一ぱいの時でもこらえなければならない強がりの苦しみを味わされ,弱い女の幸福のために,時にはサギ,強盗まで辞さないで,さんざんキリキリ舞いをしたあげく,仕事の片手間にしか愛してくれないのネ,と云われ,そのくせ稼ぎが足らなければ男性失格の如く云われる――.それら女の知らない男のなやみを氏独特のやわらかい話し言葉でつづつている.しかしこれは男性の愚痴ではない.男のいい分女のいい分を静かに振り返つた時,加害者は共通な存在として浮び上つてくる.
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