発行日 1948年8月15日
Published Date 1948/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906357
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女性と家庭
チエホフの短編に「赤い靴下」というのがある。氷雨の降つているある日,赤い靴下をはいた容子の良い妻君が,夫のそばで熱心に手紙を書いている。大學出のインテリである夫が退屈のあげく,手紙をとり上げて讀んで見る。何が書いてあるか分らないような,間違いだらけの手紙にあきれ返つて散々に毒づく。妻君は,目に涙を浮べて自分の無學を辯解する。
然し間もなく,ウォツカと妻君の作つたうまい料理とが,彼の心をやわらげてくれる。妻君に殘酷なことを云つたのを後悔し始める。「夫を愛し子供を生み,サラダを作るのが彼女の天分だとしたら,彼女に學問のある必要がどこにあろう。そんな必要は少しもありやしない」と考える。「知識的な問題について話すのだつたら,妻以外のあの女この女のところへ行けば良い。いやその必要もない。知識的な問題なら,男と論じ合つた方がいゝわけだ」とこの男は最後に斷定を下すのである。
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