講座
癌のいたみ
石山 俊次
1
1関東逓信病院外科部
pp.34-40
発行日 1957年10月10日
Published Date 1957/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201508
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悪性腫瘍でも,適時適切な治療法によつて健康をとりもどし,ずいぶん長い寿命を全うしている人が,数えてみれば案外に多いものである.医学の進歩とみていいと思う.しかしそれも他の種類の疾患にくらべれば甚だ心細い話であつて,その治療法のうちで,適応さえあれば最も確実な方法である根治手術についてみれば,悪性腫瘍で医師を訪れる患者の2/3は,診断がついたときに既に真の意味の治癒の対象とはならず,残りの1/3について根治手術をしてみても,5年以上の所謂無再発治癒の状態をつづけるものは更にその1/3以下であるという.この成績の細部は腫瘍の種類によつて相違するが,全体としてみてどうやら見込のあるのは9人に1人という割合になる,あとの8人は苦痛と悄衰と絶望感の渦の中に空しく失われていくのをどうすることもできないということである.こうして日本全体では年間(昭和30年)90,171人が悪性腫瘍のために死亡する.これらのうちで最も多いのは胃癌の約34,000人,次いで肝胆道癌の7,600人,子宮癌の6,600人,食道癌の3,000人,直腸癌の2,500人,肺癌の2,200人,乳癌の1,500人等であつて,これらの人々は手術,放射線照射,化学療法など全力をあげて治療してみても及ばない.
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