医学の話題
いたみ,他
S
pp.53
発行日 1958年2月15日
Published Date 1958/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910541
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医学の発達は,疼痛の征服によつてはじめてその緒についたといえる。外部から体表に向つて加えられた有害な刺激に対して,動物は共通の反応,すなわちその刺激から遠ざからうとする反応を示す。この際人間では一種の不愉快な感覚を伴い,これを痛覚,いたみという。犬や猫などにも,痛みという感覚があるというのは推定で実証はない。
医者にとつていたみは,診断をきめるのに忘れられない重要な症状の一つであつて,炎症性のものと,腫瘍性のものの区別は,これを手がかりにすることが多いくらいてある。胃や腸などは,針やメスなど対しては,ほとんど無感覚なのに,自然にはしばしば強度の疼痛を示して人を驚かす。皮膚の痛みと,内臓のいたみとでは,いたみの内容がかなり違つたものであることは,我々が経験するとおりである。いわゆる“さしこみ”といういたみは内臓に特有なものである。皮膚の痛みは,痛点という平方糎に平均175ある特殊の神経終末の刺激によるが,内臓にも多くの人はこういう神経終末があつて,ただその数が皮膚にくらべて少いと考えているようである。いたみの予防及び治療に対する医学が,どんなに重要かは,麻酔学の進歩による外科手術の飛躍的発展をみてもよく伺える。
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