2頁の知識
「こう手」の話
若月 俊一
1
1佐久綜合病院
pp.46-47
発行日 1957年6月10日
Published Date 1957/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201438
- 有料閲覧
- 文献概要
1.使い過ぎからくる腱鞘炎
「こう手」(東北地方では「そら手」)は,農民が農繁期に,田植や除草,稲刈などの手を使う仕事の時になる病気で,手—殊に手の腕関節の背側部ふきんに,腫れと痛みを訴えるもので,指を動かす度に痛むのが特微であるが,ひどい時は「うずいて」夜もねむれないということもある.多くは一過性で,もとは手の過労からきたものであるから,その仕事が過ぎてしまえば,自然に治つてしまうことが多い。農民は昔から黒のもめん糸で痛む手の部分をしばり,この糸が切れる項には治るというおまじないを信じてやつている.之は日本中どこでも同じようだ.
然し,決しておまじないに任しておいてよいものばかりではない.なかには,慢性化してひどくなり,手や指の不自由を来たす場合だつてある.いつたい,私たちの所(長野県南佐久郡)では,耕作農民の21%がこれにかかつている.とかく,非常に多いものであるが,この中の数%が悪化し,又は慢性化するのであるし,又たとえ一時治つても,毎年のように繰り返す,いわゆる「くせ」になるものは甚だ多いので,その農作業上に与え生産支障も決して馬鹿にならない.
Copyright © 1957, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.