とびら
やさしい話—むずかしい話
金子 光
pp.1
発行日 1961年11月15日
Published Date 1961/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911500
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人間社会が他の動物たちの社会や小鳥の社会と違う点としてよくあげられるものに,「わらい」と「ことば」がある。
牛や犬がわらう話はきかないが,小鳥などけたたましくさえずつていると,何だかわらつているみたいな気がする。からすにわらわれるなどということばがあることを思えば,鳥もわらうのかもしれない。そういえばヒヒーンといななく馬の声は,やはりわらつてるのかもしれない。ところで,ことばはどうであろう。猿や象のように群棲するのをみれば,何かお互いに通じあうことばがあるように思われるし,親鳥のもつてくる餌をほしがつてピイピイいう雛のことばは,親にわかるらしい。つばめや雁のように世界を股にかけて生きている鳥たちには,外国語の区別もあるのだろうか,など,たあいもない思いが次から次にわき出してくる。どうしてこんなことを考えているかというと,人間のことばがあまり複雑なためである。ただことばが複雑なだけでなく,その使い方の種類の多いことには驚く。同じ事がらや出来事をはなしことばにしていう場合に,決して人々は一様でない。10人10種ということがあるが,10人100種ぐらいに使いわける。また,クセというか,このみというか,故意にまたはそうでなく,とにかく違つた表現をする。そのままを,素直にいうのがいちばんいいと思うのに,ひどくまわりくどくいう人,いつぱい修飾していう人などある中で,いちばん困るのは,ひどくむずかしくいう人である。
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