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"日本一の健康村"に学ぶ—村長ありき—沢内村深沢晟雄の生涯—及川 和男 著
髙橋 一泰
1
1代々木病院検査科
pp.362
発行日 1987年4月1日
Published Date 1987/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543204047
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医療を取り巻く環境は年々厳しさを増し,「冬の時代」といわれる状況は構造化してしまったように思える.医療機関の倒産は毎年数十件にも及んでいると聞く.医療制度の面でも老人医療費が有料化されたり,健康保険制度始まって以来続いていた健保本人の10割給付が崩されるなど,国民医療への甚大な影響が心配される.「臨調」による「医療費抑制」を契機に進行しているこうした国の医療行政の先き行きに大きな不安を覚えずにはいられない.こんな憂うつな「冬の時代」に『村長ありき』は一条の光明を与え,明日の医療のあり方を考えさせてくれた.
物語りの舞台である沢内村は岩手県盛岡市の西南に位置し,奥羽山脈の麓にある.全国でも有数の豪雪地で,かつて人々は深い雪に埋もれて,厳しい自然にじっと耐えるだけの生活を余儀なくされていた.昭和32年この雪深い村に深沢晟雄村長が誕生した.当時,乳児死亡率の全国平均は40.7で,全国でも最悪の岩手県では66.4,沢内村のそれはさらに悪い70.5であった.豪雪と貧困が尊い命を奪っていた記録である.この現実を前に深沢村長は「人間の生命や健康は人間の尊厳の根本であって,それに格差をつけられることは絶対にゆるされないことです.だからわたしは国民の生命や健康に関することは教育問題と合わせて国家の責任で管理すべきだという考えです.今すぐそれが叶わないのであればせめてこの村だけは村の責任で村民の生命と健康を守りたい」という信念を固め,村民の生命と健康を守ることを政治の一番大切な原点として「生命行政」にとりくんでゆく.
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