書評
―原田憲一 著―精神症状の把握と理解
樋口 輝彦
1
1国立精神・神経センター
pp.407
発行日 2009年4月15日
Published Date 2009/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101410
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DSM-Ⅲが登場して約30年が過ぎた。この間,数度の改訂があったものの,基本構造は変わっていない。DSMは精神科診断学を大きく変えた。国際的な疫学研究や臨床研究が,それまで共通の診断基準がなかったために比較ができず,議論が深まらなかったことを考えるとDSMの役割がいかに大きいか認識を新たにするところであるが,その一方で,それ以前の精神医学の中心であった精神病理学への関心が薄まったことによるマイナス面にも目を向けなければならない。
私は精神科医になって36年になるが,DSM-Ⅲの登場する前10年とその後の20数年を経験して今日に至っている。初期の10年間は初期研修をはじめ,臨床の場において重要とされたことは精神症状をいかに正確に記載するか,精神症状を総合して精神病理をいかに把握し理解するかであった。来る日も来る日も新患の予診をとり,症状をまとめ,状態像を整理し,鑑別診断をするというトレーニングを受けた。この10年間の精神病理のトレーニングはその後,DSM-Ⅲ,Ⅳの時代になっても大いに役立ったように思う。DSMでの症状評価はともすると表層的になりがちである。症状の捉え方やその意味を身につけておくことは重要である。「精神病理は難しい」と思われがちであるが,この本を読むと大変わかりやすく書かれていることがわかる。しかも,これだけは知っていてほしいと思う基本的な事柄がすべて含まれている。まさに,初期トレーニングにもってこいの書と言える。
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