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保健婦日記
山田 和子
pp.61-63
発行日 1956年9月10日
Published Date 1956/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201270
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姑を説得して生理的悲劇を救う
○月○日
今日も相変らず自転車のペタルをふんで,村内の家庭訪問に出かける.まず赤ちやんは無事に生れたがお乳が出なくて困つているという助産婦さんからの連絡で訪問してみた.
古びた農家の薄暗い部屋から蒼白い顔をしたお母さんが,私の訪問に落ちつかないおどおどした態度で私を迎えてくれた.この人は初産で,数日前まで助産婦さんに赤ちやんの入浴をお願いしていたとの事であつた.私が「それでもう起きているのですか,まだ休んでいなければ無理ですよ」と注意すると悲しそうに黙つて下を向いてしまう.私はふとこの人の嫁としての位置をわびしく感じないわけにはいかなかつた.話によると,赤ちやんは女の子で出生時の体重は標準に少し満たなかつた程度であつたが,どうしたのかお乳を赤ちやんが吸わないというのである.私が乳房を見ると,乳首が奥の方に凹んでいるし,お乳も細くて出ない様である.これでは赤ちやんが吸わないのでなくて吸えないのである.「乳首が凹んでいる人は妊娠中に引出して置いてお乳の吸いやすいようにしておくと良かつたですね.又お乳がよく出るように妊娠中からいろいろな栄養物を,好き嫌いのないように食べたり,妊娠後半頃よりビタミン剤をのんでいるとお乳がよく出るといわれています.今からでも好き嫌いをせずに何でも食べ,特にもち米のもの,もしあれば鯉こく,わかめの味噌汁,お魚や栄養のありそうなものを食べてごらんなさい.
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