書評
—椎名麟三 著—『運河』
原 誠
pp.60-62
発行日 1956年8月10日
Published Date 1956/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201249
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椎名麟三が文壇に登場したのは,昭和22年.戦後のあの混乱した社会に実存している絶望的な人間が,どうして生きてゆくか,社会と自我との複雑なかかわりあいのなかにある自由とは何か,という本質的な問題を提起し.それを追求して,当時の知識層の精神的な課題に応えようとした.いわゆる戦後派作家と呼ばれる人たちのうちでも,代表的な小説家であつた.
以来10年.椎名麟三の小説のテーマは一貫して変らない.が,昔にくらべると文体はずつと流麗になり,思弁的な晦渋さもなくなりひろく読者層をとらえるようになつてきた.これは彼の小説が,ひとつのテーマにますます深くくらいつきながらも,10年昔よりは遙かに発展し,そして今後もどこまで進歩してゆくか判らないほど.それほど大きな期待のかけられる作家になつたということに他ならない.
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