教養講座 小説の話・33
人間の自由—椎名麟三の課題
原 誠
pp.42-44
発行日 1959年11月15日
Published Date 1959/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910964
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
できたらもう一度前の号に目をとおしてみて下さい。
椎名麟三が,「神の道化師」を発表したのは昭和30年のことであり,16歳くらいの子供だつた頃のことがつづられていました。これからお話する「自由の彼方で」は,それ以後の自己体験が書かれていますが,発表したのは「神の道化師」よりも早く,昭和28年から29年にかけてです。いずれにしても,もう「戦後」ではありません。戦後まもなく椎名麟三が,「深夜の酒宴」を発表したときから,6〜7年の時間が過ぎていました。この間に,椎名麟三という一人の作家の生き方は,かなりの変貌をとげているのです。その生き方と思想の変貌が,作品のうえにも反射してあらわれてくるのですが,しかし彼の場合,「深夜の酒宴」で投げかけた主題が,まるきり新しいものに変つていつたのではなくて,そのうえに,発展的に彼の生き方と思想の変貌が積みあげられていつたのでした。
Copyright © 1959, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.