新刊紹介
—武田泰淳著—「美貌の信徒」
原 誠
pp.49-51
発行日 1956年10月10日
Published Date 1956/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201284
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アプレ・ゲールというのは,とかく悪い意味につかわれていて,常規を逸した非行性をともなう若者たちの呼び名にされている.が,もともとの意味は「戦後」ということであり,戦後に名をなした者戦後にもの心ついた者いつさいをさすのである.だから,これをただちに悪徳とむすびつけて考えるのは間違いで,政界にも経済界にも学界にも,40才,50才の立派なアプレ・ゲールが,いくらでもいるのである.文学の世界では,その点ハツキリしている.日本の文壇でアプレ・ゲールというと,問題なくこれは戦後派一般のことを指し,まず椎名麟三,梅崎春生,野間宏,武田泰淳などがあげられる.彼等は戦後,いちはやく頭角をあらわしたアプレ,第一次のアプレである.これにつづいて,堀田善衛だとか,安部公房だとか井上靖だとかは,第二次のアプレであり,安岡章太郎や吉行淳之介や小島信夫などという人たちは,いわゆる第三の新人とよばれるアプレ・ゲールなのである.
武田泰淳は明治45年生れだというから,今年45才.ずいぶん,いい年齢のアプレである.東京本郷の潮泉寺というお寺の次男坊にうまれ,東大の支那文学科を思想問題にふれて中退,その時から中国文学研究会をつくつて,現代中国の研究にたずさわり,多くの中国文学の飜訳,および評伝「司馬遷」などを著していた.昭和19年に上海中日文化協会というのに就職して大陸に渡り,敗戦の翌春帰国した.
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