特集 慢性疾患—明日の公衆衛生のために
心不全の早期発見のために
太田 怜
1
1東大田坂内科
pp.50
発行日 1956年5月10日
Published Date 1956/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201171
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心不全の早期発見の為には,その人が日ごろから心臓病を有しているか否かをよく知つておくことである。慢性心不全を招く疾患では何と云つても各種弁膜症が最も多いが,その他,高血圧症,腎臓炎,心筋変性,或は,バセドウー氏病も心不全に陥り易い.慢性心不全は大抵の場合,鬱血性心不全で,左室不全の際には小循環に,右室不全の際には大循環に鬱血がおこるが,上記疾患の場合には,左室不全の方が早期に起り易い.従つて心不全状態の早期発見には,心臓病の殆ど唯一の徴候であるかの如く世間で見做されている.むくみよりも,左室不全の徴候の方を標識にすべきである.
左室不全の徴候に二つある.一つは左心搏出量の低下であり,一つは肺鬱血である.左心搏出量が低下すると,身体の酸素量の不足の為,全身倦怠感を訴えるが,これが案外心不全の早期の唯一の徴候であることがある.又心搏数が増加する為,普通の歩行の際にも動悸を覚えることも心不全の初期を示すものと云える.又,この時期に,食欲不振,吐気その他胃腸障害の表われて来ることもある.小循環に鬱血がはじまると,呼吸困難或は,咳嗽,喀痰等の症状が表われる.この呼吸困難は,早期には運動後にのみおこるが,心臓喘息と呼ばれる状態になると,所謂起坐呼吸となり,安静にしていても,夜間就寝時に,喘息の発作に繰返し襲われる様になる.
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