特集 慢性疾患—明日の公衆衛生のために
公衆衞生における慢性疾患
田多井 吉之介
1
1公衆衛生院生理衛生学部
pp.10-23
発行日 1956年5月10日
Published Date 1956/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201167
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1.はしがき:慢性疾患とは
慢性疾患は,1948年のアメリカの慢性疾患と老衰現象に関する健康会議で,「進行の傾向にあるかどんどん進行してゆく,健康に関するあらゆる障害をいい,患者がその存在に気づいいているか否かにも,またそれによつて生ずる無能化の程度にも無関係である」と定義されている.慢性疾患を広義にとれば,結核や梅毒のような病原体によつてからだに慢性の障害が生じた場合も含めてよいはずであるが,このように単一の病原体が存在する疾患は除外して,狭義に解釈するのが普通である.このような慢性疾患のことを,病理学者は「退行性疾患—degenerative disease」と呼んでいる.例えば幼年期に小児麻痺にかかつて肢体が不自由になつたとする.この不自由は永続するかも知れないが,進行的ではなく,実際にはあるていど補償力が生じてくる.したがつて,これは慢性疾患にはいらない.なお退行性疾患は,また器質病と呼ばれることもある.
慢性疾患の中でとくに問題になるのは,(1)リウマチ性と梅毒性の慢性心筋炎,動脈性高血圧症,さらに脳卒中,冠動脈異常,腎・膵臓性などの動脈硬化症を主体とする循環の異常,(2)糖尿病,貧血,更年期障害ならびに痛風を含めた代謝異常,(3)あらゆる悪性腫瘍,ならびに(4)関節炎である.
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