講座
老人の心理(3)
橘 覚勝
1
1大阪大学
pp.62-65
発行日 1956年4月10日
Published Date 1956/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201162
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§7.心理的老性兆候について
精神的機能や性能が年令とともに減退することは,身体の場合と同趣同巧であることはいうまでもありませんが,いままでのところではまだ十分というほど成果がでていません.私自身の研究をここで具体的にのべる余裕はありませんので,従来知りえたところについて二,三ひろつてみることにしましよう.
知能テストの結果,まずその知能評点からみてどういう経過をとるかといいますと,大体19才乃至20才で頂点に達し,爾後年令のすすむに従つて次第に下降することは,すべての研究結果の一致しているところでありまして,しかもどの結果もほとんど差異はなくきわめて接近しています.テストの種類からみて,語彙検査,異同検査定義検査などは,高年になつてもあまり低下しないが,数計算,常識,反体連想,文章完成,置換,類推などの検査におきましては,低下の度はいちじるしいということであります.全体としての結論をいいますと,知能評点の低下に影響するものは,単に知的な水準如何というだけではなく,いろいろな要因が重畳するから,知能の年令的な低下ということを評価することは非常に困難であり,さらに速度を必要とするようなテストは老人には不適切であること,またテストの問題や場面に対して不慣れであるということ,最後にはテストの種類がはたして老人に妥当であるかどうかというようなことも,大いに考えなければならないと思います.
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