特集 公衆衞生とノイローゼ
綜説
老人の心理的特徴
金子 仁郎
1
1大阪大学
pp.31-34
発行日 1957年2月15日
Published Date 1957/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201789
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まえがき
老年期というものは,長い人生の最終期であり,たそがれの時期であるが,これがいつからはじまるかを明確にすることは容易でない。われわれは大まかに老人という場合は,60才以上,時には70才以上の者をさしているが,このような暦年令ではつきり老人というものを区別することが出来ないのは周知のことである。人間は元来個人差がかなりあるものであるが,ことに老年になるとこの個人差が大きくなり,70代でも壮年に劣らない人をよく見ることができる。このように暦年令で区別が出来ないので,生理的年令で区別しようとする試みがなされるが,これも実際上はかなり困難な問題である。従つて,ここでは身体的並びに精神的能力の衰退がかなり著明となり,壮年時代の活動が出来なくなつた者を老人として論ずることにする。
老年現象そのものが,生理的なものか,病的なものかは問題となるが,しかし生物は生きている限り老衰をまぬかれない。この老年性変化は個体に内在する生命のエネルギーが減退し,細胞や組織の機能が衰えることによるが,しかし一方環境の影響もかなり強く受けるものである。老人の心理的現象にしても,脳神経組織が老年性変化をきたし,その機能が衰退することがその基礎をなすが,しかし老年に伴なう種々の環境的変化もまた老人の心理に種々の影響を及ぼすものである。
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