主張
数字の悪戯
pp.5
発行日 1953年9月10日
Published Date 1953/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200585
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過日,公衆衞生関係の会合の席上で,その道の権威から関係者一同に警告が与えられ,深くうなずくものがあつたのでありますが,同時に方策を各自その分野に於て研究し,実踐しなければならないと考えます.それは,わが国の公衆衞生の現状であつて,最近目立つて進歩してきたことは,種々の統計的数字によつて明らかなところであつて,数年前までの現状では,仲々到達するためには困難且つ年月を要すると思われていたことが,思いがけない早期に実現し,或るものは当時の希望水準を上廻るものさえ出ています.
例えば,乳兒死亡についていつても,60をわるという事は考えられなかつたし一般死亡率が,10のケタに到達するなどは10年前には空しい希望でありました.国民病として最大関心事の結核死亡率すら過去10年間余りに3分の1近くにも減少し,今日尚減少の道を辿りつつあるのです.しかし,よく眼をあけてその数字の裏にかくれた実態を同時に学びとらなければなりません.これらの数字の減少はひとりわが国のみに於て実現された事ではないのでして,世界中の文化国に於ても同樣衞生状態が改善されているのであつて,これを彼我比較してみうと,乳兒死亡の場合では,20を下廻り我が国の3分の1位になつているし,結核の死亡率は,我が国では著しく低下したわけであるが,いわゆる文明人といわれる白人諸国の結核の歴史からみればむしろおそきにすぎる方だということがわかる.
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