音樂入門
音樂史(其の三)
山本 金雄
1
1NHK合唱団
pp.53-54
発行日 1953年1月10日
Published Date 1953/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200443
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ハイドン,モーツアルトの後を継いで,古典楽を大成したのはルードヴイツヒ・ヴアン・ベートーヴエンである.音楽史を通じドイツ音楽をその主要な地位にもつていき,世界に冠たるものとしたのも彼である.若し彼ベートーヴエンが生れていなかつたらば,近代の音楽,現代の音楽と云うものは,どんな形になつていたか,恐らく想像も出来ないものになつていたであろうと思われる.57才の生を全うした彼は,ソナタの完成者として9つの交響曲,32のピアノソナタその他数多い室内楽と唯一つの歌劇「フイデリオ」があり48才にして遂に音楽家として不幸この上ないつんぼとなつて了つたが,尚屈せず晩年の傑作の数多い作品を製作している.時代からいえばモーツアルトの14才の時生れたベートーヴエンは古典主義の最盛期に育ち,ロマン主義の芽生えた時代に世を去つている.彼の作品の傾向も又初期の古典音楽に対し,後期のロマンテイツクの傾向のある音楽にまたがりアメリカ及びフランスの革命,ナポレオンの盛衰と1812年の戦争等の中にあつて,よくそれらを音楽にも表現し,ゲーテ,シルラー,カント,フイヒテ等の思想をも取入れ,あらゆる音楽の形式樣式に採用し自由にくちしている.彼の音楽の特徴の第1は愛情の表現の強烈な点で,形式の整つた美しい音楽というよりも寧ろ心の苦悩や喜びを切実に音楽に表現した.その為メロデイー,ハーモニー,リズム,音色等あらゆるものにそれを用いている.
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