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保健婦業務と結婚生活は兩立出來るか
伊藤 靜枝
1
1長野縣伊那保健所
pp.48-50
発行日 1951年12月10日
Published Date 1951/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200202
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標題の如きテーマを與えられたのでありますが,なかなか難しい問題であります。保健婦業務の眞随を探究すればする程,私生活と職業とは決して兩立するものではないことを體驗致します。私がまだこの仕事の何んであるかを,はつきり掴めなかつた當時は,誰にでも,いとも簡單に兩立出來ますよとよく言つたものです。しかし私も結婚生活14年間のうち保健婦として10年間職業戰線に立つて見て感ずることは,どうしてあんな輕卒な言葉を口走つてしまつたものかと冷汗が出る思いです。私が妻として良人に與え得られたものは何んであるか。また家庭の主婦として經濟的にも,精神的にも決して満足を與え得たことの何一つとして無いすべでマイナスであるということ,家庭か,職場か,と心の隙間を縫つて鋭くひらめくものがあります。矢張り私も女性なのです。たまには心のゆとりをもつて精一杯良人に愛情が捧げたい。また愛して欲しい。しかし私には,その言葉が許されない。これは私の性格的悲劇なのかとも考えられますが,結婚ということをよく考えて見るとき決してこの營みは儀禮的のものであつてはならないことを痛感致します。健康な男女が幸福な結婚生活により優秀な子孫をのこすことこそ結婚の重大な意義があるのだと思います。その幸福であるべき日常生活が,イタチごつこのような誠にチヨロチヨロと追いかけたり,追いかけられたり目の廻るような多忙な生活であつたらどうでしよう。
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