主張
保健婦と小説
pp.5
発行日 1951年10月10日
Published Date 1951/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200151
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小説は所詮つくりごとであるとはいつても,人間の想像力には限りがあるのだから全くのつくり事ではなく,其の物語を生み出すヒントそのもの,又は骨格をなすものは事實であるということ,少くとも登場人物中の一人や二人はモデルがあるものであるということは事實らしい。甚しい場合には,凡ての人物を,現實の人間を角度を變えただけで配し,事實をありのまゝに物語つているものも相當にある。日常茶飯事でない,極秘らしいこと,偶然の事實などを「小説のような」といつて形容している丈である。人間生活を營む小説の作家が,どれ程想像力をたくましくしても,人間以外のものの生活を物語ることは出來得ない。只,更に興味深く,殊更に誇張して人の心をひくことに努力しているにすぎないのである。普通は人の目に易々と入らない個人の秘察に屬する事も,小説は赤裸々にあらわすために,非常に寄異に,興味しんしんとするのだが,事實は小説以上に複雑で,數寄で,たのしく又悲しいものであることを忘れてはならない。
人口八千萬,二千萬に近い家庭を相手に一萬二,三千の保健婦が,これ程スピードアップしても到底指導の完全に期し難い。ともあれ凡ての家族が指導の對象でもないから重點的に之を行えばよいのであるが,いすれにしても,健康生活の指導をするのがその役目なのである。
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