講座
急性灰白髓炎(Poliomyelitis)の疫學
松田 心一
1
1國立公衆衛生院疫學部
pp.6-12
発行日 1951年10月10日
Published Date 1951/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200152
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1.まえがき
わが國では,この病氣について,斯界の專問家は別として,從來一般にはあまり關心が拂はれていなかつたようであるが,終戰後本病が届出傳染病に指定され,その發生や,分布や,經過等の實態が漸次明かとなり,またその患者數も遂年増加する傾向が認められるにつれ,肢體不自由兒に對する兒童福祉政策の強化と相俊つて,爲政者はもとより,一般人も交漸くこの執拗で無慈悲な,しかも數多くの不可解な謎のヴエールに包まれた病氣--卒然として人間の自由を奪い,人間を不幸のどん底に落し入れる--ての病氣に對する認識と警戒心とを高め,その豫防施策の確立に關心を寄せるようになつたことは,遲蒔きながら何よりもよろこばしいことと言はなければならない。しかし本病を法定によつて一般急性傳染病並みに取扱うとする厚生省當局の最近に於ける助力と工夫も,その患者を強制隔離したり,その患者に特殊な治療を施したりすることがわが國の隔離施設整備の現況から言つて幾多の不合理を生する虞れがあることと,なおまたそのことが本病の疫學的な解釋の上からも,斯界の學者によつて少からぬ疑義を差しはさまれたため,途に最後の結論が得られないままに當分見送られることとなつたことはいうんな點から考えて止むを得ないことと思はれるが,また他面に於て本病の實態が如何に把え難いものであり,從つてまたその豫防對策も如何に困難であるかを示すものということが出來よう。
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