講座
精神衞生—精神とは何か
土井 正德
pp.19-22
発行日 1950年12月15日
Published Date 1950/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200011
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2日ほど續いた霜で,燃えるようなサルヴイアの緋の花が眞黒にやけてしまつた。傍のベンチに消衰した老人が微かな日を浴びている。双方とも同じように消衰しきつてはいるが,この植物と動物の區別は二十の扉ならば,最初の一問で決められる容易な事實である。
麻痺性痴呆や分裂症ほどの精神病と普通健康人とは,專門家でなくとも大凡區別がつくし,説明する場合にも極端なものを例にとる方が判りやすい。精神衞生についても同樣である。だから精神健康の相手方には精神病や精神薄弱,せいぜいのところでヒステリーなどの神經症ぐらいが立てられる。それに加えて少年の不良行爲や犯罪――性格異常や精神病質に關連して――がクローズ・アップしてきたのが,兒童問題が盛になつたことに伴う現状である。それも無理のないところで,はつきりと現在の精神衞生運動の出發點,即ちClifford Beersの著書が世に問われ(1908),翌年Adolf Meyer教授の命名で全國精神衞生委員會が出來た當初は,確に目立ち易いものが目標であつた。ところがメガホンで宣傳に狂奔したからといつて問題の本當の解決にはならない。
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