特集 精神障害者への初期支援・緊急対応
日本の精神医療福祉の現状とこれからの方向
末安 民生
1
1慶應義塾大学看護医療学部
pp.942-946
発行日 2003年10月1日
Published Date 2003/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662100176
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精神医療福祉政策を考えるにあたって
■「批判のための批判」にしないために
わが国の精神科医療は,近年では地域医療への志向が強まり,精神科診療所も増加している。しかし,中心的なサービスモデルは,依然として入院病床や社会復帰施設による施設収容にもとづいている(表1)。
地域生活支援センターの設置やケアマネジメント,ホームヘルプ事業など,地方自治体に本格的に予算が投入されるようになったのは,この5~6年の間のことである。35万の病床は欧米諸国と比べて著しく多く,任意入院患者の閉鎖処遇などの問題も抱えている。欧米諸国の大半が法的・制度的に急性期短期入院治療と包括的地域生活支援モデルに転換したあとも,日本では施策として民間医療機関とその関連施設にサービス提供を委ねている。
このような現状に対して,民間医療機関による患者のサービスの一元化が問題であるという批判がある。その批判の視点に異を唱えるつもりはないが,「なぜ,そのような問題が生まれたのか」を考えなければ,批判のための批判となってしまい,サービス方法を転換する政策をつくり上げることはむずかしくなるだろう。そもそも,精神医療福祉サービスのすべてを公的機関が担うことが最上の方法なのか。もしもそうであるとすれば,なぜ実現できていないのか。「正しい方向」への政策的な転換や臨床的な対応は,なぜ生まれてこなかったのか。実現可能な解決策を見つけ出すには,これらの原因と経過,得られた結果を検討し,解明することが必要なのではないだろうか。
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