連載 ニュースウォーク・58
「医療行為」の時代性
白井 正夫
1
1元朝日新聞編集委員
pp.94-95
発行日 2003年1月1日
Published Date 2003/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662100052
- 有料閲覧
- 文献概要
通勤帰りの人たちが体をこすり合わせる熱気が満ちた車内も,1駅ごとに空間を広げ,ホームの冷気を取り込んでいった。下車駅が近づき,ほっとする。ドアに寄りかかっていた若いカップルの会話が聞こえたのはそんな時だった。
「なんだ,もうヘルパー辞めたのかよ」
「うん,半年。給料は悪くなかったし,夜勤の時給も良かったけどね」
「なんで……」
「こう見えても,つらいことあるんだ。親しくしていたおじいちゃんが死んでさ,精神的に落ち込んでさぁ」
「そんなこと,初めから……」
「たんなんか詰まらせて苦しんでいてさ,そういうの,見ているだけってつらいんだよ」
どこにでもいる若者。会話をそこまで聞いてホームに降りた。若い女性はヘルパー勤めを挫折したばかりらしい。断片的な話だったが,生々しさを感じた。いのちの現場で幾たびか議論される「医療行為」議論に触れる部分があったからだ。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.