特集 褥瘡裁判が看護に問いかけたもの
看護の発展を阻むもの—褥瘡裁判を省みて
松村 悠子
1
1北海道大学医療技術短大部
pp.889-892
発行日 1986年8月1日
Published Date 1986/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661923078
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はじめに
名古屋の弁護士加藤良夫さんから書類が送られ目を通し立いるうちに,私は何ともいえない怒りと絶望感におそわれたのでした.看護者の対象である‘病む人’の生命力が消耗されていく過程に,何の援助の手も差し伸べられず,冷たく放置されているように思える2人の老夫婦の,悲しく苦しかったであろう闘病生活が浮き彫りにされている全記録は,現代の看護が30年も昔にさかのぼったような錯覚を起こさせました.最新医療が行なわれている一方に存在する,暗い陰の部分を垣間見た思いでした.
しかし裁判の結論が出て,新聞,ラジオで報道されると間もなく,私のところへ電話や手紙が舞い込んでくるようになりました.さらに最近の看護関係の雑誌を読んでいるうちに,現在の看護の実態が見えてきました.褥瘡は場合によっては仕方のないこと,とか基準看護のもとでは作らないようにする方が無理などという考え方が非常に多く,あきらめムードで仕事をしている看護婦が多いという事実に,私は今,裁判証言前よりさらに深く怒りと落胆と差恥を覚えるのです.
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