連載 水引き草の詩(うた)—ある看護教師の闘病記・3
まな板の上の鯉
藤原 宰江
1
1岡山県立短期大学
pp.598-601
発行日 1988年6月1日
Published Date 1988/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922016
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しばしの別れ
12月4日の午後,10日間の休暇をとって看病のために帰省していた祥子(次女)は,東京に戻ることになった.
娘を乗せた車が駐車場を離れて駅に向かってからも,私は長い間窓の外を眺めていた.壁一面のガラス窓に吉備の山並みが拡がり,冬寒むの眺めながら15階の高層から望むパノラマは壮大である.薄墨色の雲が空を覆い,今にも雨粒が落ちてきそうだ.何となく胸の隙間に冷たい風が吹き込むようで,私は小さく身震いした.
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