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Ⅰ.はしがき
ある種の精神病と身体疾患の間には,病因的親和性があると想像され,とくに躁うつ病者は他の精神病者に比して消化器系の疾患が多いといわれている。周知のとおり,Kraepelinが種々の病因をもつ躁状態・うつ状態を整理し,現在の躁うつ病概念の基礎を築き,躁うつ病という病名(Das manisch-depressive Irresein)をもちいたのは1899年のことである。かれがこの疾病単位の特徴としてあげたものは,相的経過をとること,中心症状として躁症状・うつ症状を示すこと,欠陥を残さずに寛解することであつた。その後,多少の批判異論はあつたが,いわゆる正統派的精神医学ではこの考えかたが継承されて現在にいたつている。しかし,うつ病の存在が知られるようになつたのは,すでにHippocratesの時代からといわれ,当時は黒胆汁の増加が憂うつを生ずると考えられていた。その後Aretaeus(81-138)は黒胆汁が胃や横隔膜にゆくとメランコリーになるとか,季肋下部にメランコリーの原型があるとか,便秘(鼓腸)の起こることがあるとか,不眠から始まるとかの記載を行ない,さらにはHieronymus Mercuralis(1530-1606)がすべてのメランコリーに胃腸障害が生ずることを記載している。身体的側面を重視した当時の考えかたは,年月を経て,精神的側面に重点をおく考えかたに支配されるようになつてきたが,それにはそれだけの理由があつたと思われる。とくにうつ病による身体症状と合併症状との鑑別が困難な場合があること,精神症状の改善は疾患の改善とみなされやすいことなどがその理由の一つにあげられよう。しかし,うつ病はなにも感情面での障害だけをきたすものではなく,病者のあらゆる機能がおちてくるものである。この意味から,われわれはあらためて躁うつ病者の身体症状を疾病過程との関連においてながめてみたいと考えた。
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