特集2 プラシーボ効果
プラシーボの使用を試みて
向田 良子
1
,
島田 利恵
1
1埼玉県立がんセンター5病棟
pp.1252-1255
発行日 1981年11月1日
Published Date 1981/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661919390
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はじめに
‘痛み’は知覚する本人のみが知り得るものであり,客観的な尺度で測ることのできない性質のものである.それゆえにその鎮痛効果も医療者側の期待どおりにならぬケースが多い.痛みの原因となる疾患は種々あげられるが,その中でも癌は様々の機序で痛みをもたらす.周囲組織への浸潤,正常組織の破壊から局所の神経に疼痛刺激を起こす.組織の潰瘍,壊死形成,転移による病的骨折も痛みの原因となる.更にそれに加え,種々の原因による不安傾向(家族や仕事に対する不安,十分説明されない病名,病状に対する不安,独りになることへの恐怖,死の恐怖……等)が本来の痛みを増大させていると考えられる.夜間に痛みの訴えが多いことなどもその裏付けとなる.
日ごろ痛みのある患者と接していると,持続する痛みは,その人の性格までも変えてしまうと思われることがある.また,痛みの訴えが他の欲求の現れである場合もある.なぜこのような痛みを訴えるのか,臨床のデータ上では理解できないケースもある.このような場合,鎮痛剤の連用による中毒症状や,社会復帰の問題を考慮すると,患者の自立のために,プラシーボの使用も有効な方法ではないかと思われる.
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