手のひらで知る世界 目は見えず耳は聴こえずとも・8
温かい人もいた福祉事務所
石井 康子
pp.857-859
発行日 1979年8月1日
Published Date 1979/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918748
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型にはまらないワーカーのTさん
センターを卒業した時の私の全財産は,教科書とわずかの衣類と布団,それに当面仕事に間に合うだけの医療器具だけだった.炊事道具も茶わんもほうきもぞうきんも何もないところから出発した.その時の福祉事務所の私の担当のケースワーカーがTさんだった.
Tさんはケースワーカーになってまだ5か月だった.福祉事務所に対する私のイメージは,烏取の田舎にいたころから,義務的で型にはまった寒々とした,およそ人間の血の通わないものという感じが根深かったから,役所といえばどこもそんなものだろうけど,とにかく義務的にせよ冷たいにせよ,福祉事務所の色々の手続きと借りられるべき力を借りなければ,何もない所から出発した私はやっていくことができなかった.
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