特集 保安処分—反医療の思想と構造
保安処分と精神医療への圧力
中山 宏太郎
1
1京都大学医学部精神科
pp.1161-1165
発行日 1974年12月1日
Published Date 1974/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661917135
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はじめに
病人に対する社会の動きは,排除—隔離・抹殺と愛護・治療の2つの極の間を動揺しつつも,有効な,とりわけ社会経済的に安価な治療法が開発され,やがて病人自身が存在しなくなるまでは隔離・収容が優位を占め続けて来ました.結核患者,ハンセン病者,身体障害者等の歴史を考えてみれば明らかになると思います.さらに水俣病・イタイイタイ病・森永ヒ素ミルク中毒患者をめぐる近年の動向をみても,苦しい長い闘争の末に,ある程度の療養・治療の保障は整いましたが,激しい社会変動の予想される将来のどこかで,隔離・抹殺の思想が優位を占める時がないとは考えられず,絶えざる権利主張が必要でありましょう.
ひるがえって,精神医療の歴史をみますと,19世紀に西欧的近代国家が成立して以来,法律においても,社会・家庭においても絶えず迫害が強まってきたことがわかります.もっともそれ以前に精神病者が幸せだったのではありませんが,近代国家はその成立以来国家制度そのものをもって組織的・包括的に精神病者を迫害し続けたのです.日本は明治以来この歩みを追ってきました.昭和40年代には追いついたとみてよいでしょう.
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