特集 法改正の動向
改正草案における保安処分とその問題点
香川 達夫
1
1学習院大学法学部
pp.480-482
発行日 1972年8月15日
Published Date 1972/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204518
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保安処分制度の新設は,比較法的にみてそれは国際的な潮流であったといってよい.これまでにも,すでにドイツ,スイス,オーストリア,フランスあるいは北欧諸国においてこの制度の立法化がなされているし(詳細は,日本刑法学会・保安処分の研究参照),わが国においても,すでに昭和15年の刑法改正仮案において,この制度の具体化が意図されていた.
もっとも,保安処分とはその名の示す通り,社会の安全を保障するための処分であってみれば,内容的に多岐にわかれるのが通例である.対人的処分のほか対物的処分をも含むとされるのもそのためである.現に現行法のもとにあってすら,没収が保安処分たとされるのは,対物的処分を予定しているからである.だが,今次の草案の予想する保安処分とはそうした広義のものではなく,治療処分と禁絶処分のみを対象とする,対人的処分のみである.もっとも,こうした2処分に対してさえ反対論は強い.とくに医療関係者からの反対がきびしいと聞いている.謙虚に耳を傾け草案を再検討すべきだとする刑法学者の主張もみられる(佐伯千仭・ギャップ受験新報22巻3号9頁).そのこと自体,たしかに一個の課題である.医療関係者の協力なしに,この2制度はその実効を期しがたいともいいうるからである.だが,それが本稿の直接的な課題ではない.
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