看護の椅子
人間解体の時代に思う
長谷川 泉
1
1医学書院
pp.13
発行日 1966年6月1日
Published Date 1966/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912757
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ノーベル賞学者のアレキシス・カレルが「人間—この未知なるもの」のなかで,近代文明に毒された人間の悲劇を強調し,警告を発したことが今やせつなく思い起こされる時代になった。人間の社会でありながら,人間疎外,人間不在,人間解体の現象は,いったいどういうことなのか?
千葉大事件は,「白い巨塔」ならぬ「黒い巨塔」の冷い批判を世論として巻きおこした。山崎豊子の「白い巨塔」がベスト・セラーとして広く世に迎えられた時,心ある人たちは医学と大学に巣くうがんじがらめな封建制に驚きあきれたばかりでなく,医療と医療従事者への人間的信頼がこなごなに打ち砕かれてゆくのに嘆きの声をあげた。人間によって築きあげられている社会が,人間としての共感と信頼を失った場合のみじめさを,いやというほど味わわされたのである。
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