編集デスク・17
ツイストに思う
長谷川 泉
pp.10
発行日 1962年7月1日
Published Date 1962/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663904217
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地方から上京したさる大学の医学部教授が嘆いていた。近頃の大学は単なる知識の切り売り買いになってしまって,学生は心に満たされない空虚感を持っている。ツイストなどという刹那的なものを非難することは容易だが,私はそれを非難することを止めた,と。世をあげてとうとうたる勢いで軽薄に流れてゆく世相を嘆き,刹那的なもの,うわべだけのもの,皮相に命をかける浮薄な態度を慨嘆していたのである。
自然科学の進歩は,世の中に処してゆく実用的な知識を教える。文明開化の基礎になったものは,自然科学の知識である。自然科学の本質は没価値的なところにある。その開発された知識の結果が,どのように人間の世界にかかわるかということは自然科学の世界の領域のことではなくて,人文科学,社会科学の世界の領域のことに属する。価値というものと無関係に真理を追求しようとする無関心性を自然科学の方法論は基本に持つ。自然科学の開発された知識は,人間を便利な世界に導きはするが,そこでは人間を作らない。人間を作るのは,別のメカニズムである。もの知りが,人間としての価値の高いものとは一概に断ずることのできないゆえんである。
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