精神身体医学講座・3
心と病気〈1〉
前田 重治
1
1九州大学医学部心療内科
pp.58-60
発行日 1964年7月1日
Published Date 1964/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912302
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心身症がどのようにして起こってくるかを,心理学的な立場から考えるには,心の安定の障害にともなって身体的な症状が起こるからくり,つまり身体化の機制についてのべなければなりません。今日は,まずはじめに,これらの理論の基礎となっている心の平衡と適応の問題について考えてみましよう。
1.適応の心理
a)欲求
人間の欲求は,性別,年令,性格,職業,生活環境などに応じて,多種多様であり,その数は無限に近いとおもわれます。しかしそれらの中から,基本的な欲求だけをあげれば,それは,(1)空気,水,食物,性的満足,適当な温度,体臭,睡眠,排泄などを求める生理的な欲求と,(2)対人関係にもとづく心理的(社会的)な欲求との二つに大別することができます。心理的な欲求の内容は複雑ですが,ふつう問題になるものとしては,親子,夫婦,恋人,同胞,友人の間にみられる愛情の欲求,家族や仲間など一定の社会集団の一員として認められたいという所属の欲求,自分の行動を人から感謝され,ほめられ,価値を認められたいという承認の欲求,自主的に行動したいという自主独立の欲求,仕事をうまくなし遂げたいという成就の欲求,地位,名誉,財産,能力,成績などで人よりもまさりたいという優越の欲求,親や他人への依存欲求などをあげることができます。
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