アサームの旅・6
移民船で働くナースのたより—船中さまざま(その1)
大嶺 千枝子
1
1コザ症院
pp.86-87
発行日 1964年6月1日
Published Date 1964/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912284
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小さい頃,バイオリンを習っていたといい,政治,事時問題などになると口角アワを飛ばし型の少しインテリな呉さんが,私の新しい相棒になることも知らずに,九竜での親切さにお手紙でもしたためるつもりで住所などをメモしたのにじつに妙なことになった。Merry Xmasといいつつ医生(医者)が握手を求めたのが午前9時,わがTrisadaneもビクトリヤハーバーを出港,1時間は島をみることができたが,それから4日間,南シナ海を南下してシンガポールまで,Holland旗を一目下にしてオムツの満艦飾よろしく,私は日1日と迎えたばかりの冬かち逆に夏へとフルスピードで進んで行った。
病院の向かいにキャビンを持つ新しい看護夫のNさんのご招待に,始めて同僚のキャビンを参観できた。机の上に雑誌やレコード,携帯用電蓄が積まれ整理もされずに,私のところとは比較にならぬほど設備もよろしくない。何しろ社でいちばん古く小さく,cargo-boatに近いので仕方のないことである。以後私は赤いカーペットを敷いて,洗面台や化粧台,小さな畳を便用した長椅子,整理ダンス,ロツカー,机などの設備て老船が私のために精いっぱいのルービスを施してある私の御殿を心ひそかに愛し,だんだん南下して行き,暑さにむし返えされてもゴエモンならぬ亜三は古い扇風機を前に,凉しい顔で赤道を越えて南半球へ行くことを決心したしだいである。
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