ナースの作文
1年前の事
荒木 ミツ子
1
1国立舞鶴病院附属高等看護学院
pp.48-49
発行日 1961年5月15日
Published Date 1961/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911337
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1年前の今頃私はまだ高校生でした。親友は大学進学受験勉強に,私は看護学校受験勉強に励んでいました。
真剣に勉強に打ち込んでいる時私達の心は幸福な充実感がある一面,一方には必ず何か不安な寂しい孤独感が伴うのです。—この孤独感は別の言葉で言えば人なつかしさであり,こういう感情をもつのは群生動物である人間として当然の事で意志の強さとか弱さという事とは無関係な事であると何かの本に書いてありましたが—。中学から高校へ,高校から看護学校へと進む時,毎晩1時過ぎまで粘り続けた苦しい受験勉強の体験は今となつては,私にとつて何より楽しい思い出なのですがとかく暗くなりがちな毎日の生活の中でとりわけ印象深くいつまでも忘れられない事があるのです。それはよいの口から机の前にすわり,かなりの疲れを覚える10時頃,私と一緒に起きていてくれた母が毎晩運んでくれた熱いおうどんと牛乳の味なのです。私はそのおうどんをすすり,牛乳をのみながら成果を母に語り,母の励ましと慰めの言葉を聞きながら,新しい元気を得て頑張るのでした。母はおそらく私があの時その様な感情を得た事は知らないでしよう。母としては親の自然の情として毎晩私に運んでくれたにすぎなかつたでしようから。私の胸に暖かい記憶としていつまで消えない。人間にとつて何より大切なのは強固な意志と努力ですがそれは周囲の暖かいささえがある時,一層強く一層長続きするのです。
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