助産婦の手記
学ぶ事多かつた卒業後の1年
瀬谷 美子
pp.54-55
発行日 1958年4月1日
Published Date 1958/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201460
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今年も又,希望に胸をふくらませた助産婦が巣立つて行つた.私もやつと姉になつたのだ.新生活に馴れる事に夢中で精一杯であつた1年とはいえ,有意義な経験を得た事に気ずいて居る.昨年卒業期に入つて国家試験に対する心配も大きかつたが,直ちに社会人として,助産婦という職業婦人として,社会にほうり出される我々の将来への歩みについて,折ある毎に相談し合つたあの真剣な姿は,同じように職業婦人として巣立つ看護婦学校卒業期には,見る事の出来ない雰囲気を持つて居た事を想い出す.幸い私は卒業其の日から我家の助産所が,開業助産婦の私を待つて居て呉れた.国家試験に合格し,其の記念に,母から新らしい自転車を贈られ高校時代から夢に描いて居た事実が与えられた時のいい尽せぬ喜びは,今も鮮やかに,よみがえつて来る.看護婦学校を卒業してしばらく家に戻り,仕事の実際に飛び込んだ私は,母鳥の羽の下から目をあげて,まぶしそうにまばたくひな鳥でしかなかつた.患者の専門的な質問に戸惑い,限られた仕事しか出来なかつた其頃に比べてこの1年は実に勇敢に進んで来たと思う.自分は資格ある助産婦として,患者に応じなければと云う自覚が仕事の範囲をひろめ,保健指導も回を重ねるにつれて,積極的に行う事が出来るようになつた.
私の人生にとつて一前進の時期であろう.勇気をもつて全身を投げ出して体当りして行く時には,身をもつて良い経験が得られるものだ.
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