扉
砂漠の医者
pp.1
発行日 1960年10月15日
Published Date 1960/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911173
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イスラエルのネゲブ砂漠といえば,気温は54度からもある焦熱の地帯,ここにある時1人の医者がフラリとやつて来た。開業するのかと思うとそうではない。毎目毎目焦熱のネゲブ砂漠に出かけて不毛の砂漠にただ1つ生きるセイジという枯れ草をつんでいる。全身が火ぶくれになつてつんでいる。皆は気違いだと思つてあざけつた。そのうち医者は突然砂漠ゆきをやめて,こんどは家にとじこもつたが,3日目に役場に来ると,村に贈るものがあるから私の家に来て下さいといつた。好奇心をそそられた村長以下,ぞろぞろと出かけて1歩その家にふみこんであッと驚いた。それは冷ぞう庫のように冷たかつたからである。この地方特有の強烈な北風の,風すじに当たる壁に大穴をあけ,そこに厚さ50糎ばかりに束ねたセイジをつめこんだのがからくりであつた。風は吹き抜けながら冷やされて部屋に流れこむ。この地方の人々にとつて,クーラーなど夢のまた夢。そこで人々は狂喜してまねをはじめた。暑気あたりの病気は急減し,仕事はぐんとはずんで人々は健康を保ちつつ働くことが出来た。ところで,お礼をいいたいと皆が気がついた時,その医者はいつのまにかいなくなつていた。
以上は,実際にこの話を現地できいた或人の記事で,その人は更に次のように結んでいます。
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