連載小説
胎動期〔2〕
十津川 光子
,
久米 宏一
pp.53-59
発行日 1960年3月15日
Published Date 1960/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911062
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新制度の看護婦学生
新入学生に与えられた寄宿舎は,コの字型に並んだ寄宿舎の中で一番小さく,そして古い貧弱な建物だつた。1,2階ともそれぞれ10畳間に区切られ,それぞれの部屋に6人の机が壁にくつついて並び,更に夜が訪れて6人の蒲団が敷かれると,もう足のふみ場を失ない,身動きの出来ない狭さだつた。しかし,全国から寄り合つた若い彼女らには,そうした寄宿舎生活がかえつて新鮮で楽しかつた。
彼女らには1日の授業が終り,貧しい食堂の夕食が終ると別な楽しみが待つていた。それは電気を消して蒲団にもぐつてからの,際限のないおしやべりだつた。小説もどきの身の上話,お国自慢,食べものの話,はては怪談までも飛び出して眠る機会を次女に失うのだつた。
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