扉
一匹だけの鯉のぼり
pp.5
発行日 1956年6月15日
Published Date 1956/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910992
- 有料閲覧
- 文献概要
最近は,朝日新聞の朝刊をあけると,時時三面と四面に,可愛い子供の写真と名前,そのあずかつている施設の名称がのつているのをみる。其の都度,私は一人一人の子供の写真にみいつて,早く親がわかりますように,この子供達には特別の加護がありますようにと祈るのである。名前も全然不明な子供が,適当に名をつけてもらつてあるのなど,いじらしくあわれである。
5月のさわやかな薫風を,パクパクと美味しそうに腹一杯に吸つて,大空に泳ぐ勇しい鯉のぼりが,今年も例年のようにたのしくゆられたが,何だか今年は昨年よりその数も大そう多くなつたように思えた。のぼりをたてる程の庭をもたないこみ合つた住宅街の或る家で,家のまわりの生垣に鯉を横にはわせているのをみて,思わずほほえんで親心を有難く思つたのもある。そうして,そうそう,NHKのテレビー塔にも巨大な真鯉と緋鯉が泳いでいた。これなど全く新風景であつた事であろう。
Copyright © 1956, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.