今日の問題
消費文化の弊害
外輪 哲也
pp.71
発行日 1959年6月15日
Published Date 1959/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910879
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日本は「文化国家」だと言われている。だが,それが「生産的文化」であるかと問われたら,誰しも「そうだ」とは確信を持つて答えられないだろう。典型的な「消費文化国家」である。映画,テレビ・スポーツなど娯楽文化の進展はめざましい。人間は次第にものを考えなくなり,白痴化する傾向をたどつている。これは,高度に文明の進んだ時代に生きる現代人の宿命だと言えば言えるが,喫茶店やスタンド・バーにいたつては恐しい勢で激増している。都会には軒並みにネオンをつらねているし,ちよつとした田舎町に行つても一つや二つはある。まさに壮観である。その設備も住宅がおそまつな日本とは思われないほどこらしたもので,山小屋風ありサロン風ありといつた具合で,「喫茶店文化」を誇り「スタンド・バー天国」を作り上げている。狭く仕切つた座席,HiFi音楽,半裸のウエイトレス,そして,十中八九は顔の判別もつかぬくらい薄暗い。この暗いことが絶対不可欠の条件になつているらしい。
だが,どう考えてみても,健康的な憩の場所とは言えない。煙草の煙はよどんでいるし,衛生的にも極めて悪い。一人思いにふけることなどまず不可能なことだし,友とゆつくり語り合うことも出来ないばかりか,コーヒーの味も満足に味わえない。騒音の多い日本でも,もつとも騒音の多い場所である。この薄暗い騒音の場所は,反社会的現象の培養の原因になつている。
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